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勇気という名のプレゼント [分娩]

最近は高齢の妊産婦が年々増加しています。
40歳なんて、珍しくありません。

うちの病院でも、先日46歳の方が出産されましたし、
そんな話を仲間内ですると、
「うち(の施設)は48歳。しかも、双胎。」
とか、ちょっとしたどや顔で言い返されたりします。

先日、一人の妊婦さんが出産されました。
42歳の初産婦さんでした。
結婚が遅く、ご主人は年下でした。

妊娠初期から、いつも機嫌良く?受診されており、
体重増加や血圧など、注意することもほとんどなく、
いわゆる「順調に」経過していました。
風邪を引かないようにと、病院に受診するときはいつもマスクをされていて、
この方を素顔を見たのは、妊娠36週に入ってからでした。

 「失礼ですけど、こんな顔してはったんですね。」
「そうなんです。すいません。」
 「いっつもマスクしておられたから。」
 「もし、緊急で手術することになっても、他の人と間違うかも知れなかったですね、わはは。」

健診についてきたご主人も楽しそうに、
「かわいい顔してるでしょ?」
って。
 「はい、そうですね~。」

この方は、妊娠初期からはっきりと意思表示をされていたことがあります。
分娩は最初から帝王切開を希望されていたのです。

電子カルテのサマリーに、
出産予定日とか合併症の有無などを記載している部分があるのですが、
そこに、
「選択的帝王切開希望」と記載してあります。
(・・・記載したのはボクですが、)

 「帝王切開ですか?」

「はい、高齢なんで。」
「高齢って、なにかとトラブルあるって言うし、安全な方でお願いします。」

 「帝王切開にも、それなりにリスクはありますよ。」

「はい、でも、赤ちゃんには安全な方がいいかなって。」
「それに、最初で最後の妊娠だと思うんです。」

 「わかりました。」

毎回の妊婦健診が、あまりにも順調だし、
妊娠9ヶ月目には、児頭が骨盤内に下がってきており、
妊娠10ヶ月目には、少し子宮口が軟らかくなってきていました。

こんな妊婦さんを帝王切開していいんだろうか?
悩んでしまうくらい、もったいない気持ちになりました。
もったいないですよ、といっても、
この方の気持ちは揺らぐことはありませんでした。

帝王切開の前に、ご主人と一緒に、手術のリスクを説明しました。
その後で、同意書を渡して、記入してもらいます。

たまたまでしたが、
入院した前日は、ボクが当直だったので、
夜中に陣痛が来たら、そのまま経腟分娩してもらおうか、なんて密かに考えていました。

結局、陣痛は来ることなく、
手術の朝になりました。
病室に顔を見に行きました。

 「おはようございます。いよいよですが、よく眠れましたか?」
「あんまり眠れませんでした。」
 「頑張りましょうね。」
「はい、よろしくお願いします。」

いつも、ずっとニコニコされていた方ですが、
さすがに緊張は隠せません。
笑顔が明らかにこわばっています。

帝王切開は、滞りなく順調に終わり、
元気な赤ちゃんが生まれました。

 「お疲れ様でした。 怖かったでしょう?」
「はい。そりゃ、もう。」
「でも、主人に似てくれててよかったです。」

いっぱいいっぱいのギリギリの笑顔で答えてくれました。

そこで、ボクは考えました。

高齢であると言うだけで、
自然な経腟分娩をせず、
帝王切開を受けることは、
本当に正しいことなんだろうか?
本当に必要な医療介入だったのか?
きっと、この方なら、普通に、いや、普通以上に順調にお産できたのではないか?

医学的に、何が正解か、わかりません。
46歳の初産婦なら、世の中のほとんど施設が帝王切開を選択するでしょう。

この方にとっての帝王切開は、
生まれてくる赤ちゃんに対して、
「自分ができる最大の安全」を提供する手段だったのだと思いました。

その安全を提供するために、
この方は、顔が引きつるくらいの恐怖に耐え抜いたのです。

陣痛は、そりゃ痛いでしょう。
しかし、
医学的に必要がなかったとしたら、
お腹をばっさり切って、赤ちゃんを産むなんて、
ボクが女性だったら、怖くてできないと思います。

この方は、妊娠をしたときに、
最後に、元気な赤ちゃんを抱っこする、という最終目標を達成するために、
自分がイメージできる最も確実な方法を選択したのでしょう。

この方が選択した帝王切開は、
もしかしたら、母親として、最初に赤ちゃんに捧げた、
『勇気』という名のプレゼントだったかも知れません。

これからも、ニコニコと
優しい笑顔で、子育てを頑張ってください。
そして、赤ちゃんが大きくなったときに、
自分がどんだけ頑張って、産んだのかを
誇らしく話してあげてほしいと思います。

本当にお疲れ様でした。

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この子が教えてくれたんです。 [分娩]

少し前、当直をしていた時、母体搬送の依頼がありました。

妊娠35週の経産婦さん。
自宅で意識消失を起こし、近くの救急病院に搬送されました。
血液検査や頭部CT検査で特に異常はなく、
数日前からの下痢・嘔吐があり、原因は脱水症状のようでした。
ただ、胎児モニターで一過性徐脈が出現しているとのことです。
一過性徐脈は、胎児の低酸素状態を示す児心拍の波形パターンです。

「原因は脱水みたいなんですが、胎児が元気ないんです。すぐに(ベビーを)出さないといけないと思いまして。」
 「わかりました。すぐに送ってください。」

その病院の先生は、よく知ってる先生です。
小児科が早産児の対応ができないという理由で紹介になりました。

到着すると、
意識ははっきりされていますが、顔色はすこし悪いようです。
血圧は正常ですが、脈拍は早い。
ショック状態です。

 「輸液アップしよう。」

脱水という情報もあり、輸液(点滴)をたくさんしないといけません。
輸液をしながら、超音波などで診察をしていくと、
早産や胎盤早期剥離の所見はありませんでした。
羊水も十分にあるし、胎児の状態が悪い原因ははっきりしませんでした。

 「何やろ?」

胎児の状態がよくない原因がわかりません。
考えられる原因を一つ一つ挙げては、確認していきます。

 「そうか、貧血か。」

到着してすぐに行った採血検査の結果が順次出てきます。
前の病院でした採血検査と比較すると、
ヘモグロビン値が2g/dLほど低下しています。
妊婦さんの血液量は体重の10%といわれています。
もともと貧血がなかったとして、最低でも2000mLほど出血しているか?

じゃあ、どこから出血しているのか?

 「消化管しかない。」

脱水症状が重なって、血液が濃縮していたので前の病院ではよくわからなかったようです。
そういえば、診察のとき肛門付近に付着していた黒い汚れは、黒色便やったか。
黒色便は胃からの出血が胃酸の影響で黒くなってできます。

 「輸血の準備をして、すぐにカイザー(帝王切開)!」

輸血の準備を大至急オーダーしました。
胎児の状態がよくないので、大至急で行いたい。
麻酔科、手術室、小児科など、すぐにでも帝王切開する準備はできていましたが、
ここは母体最優先です。
状況を妊婦さん本人とご主人に説明し、同意をいただきました。
急速に点滴をしながら、手術室に運び、クロスマッチが済んだ輸血の到着を待ちます。
ほんのしばらく時間が、長く感じました。

母体の状態を考えると、麻酔は全身麻酔です。

 「頑張りましょうね。」
「はい…、お願いします。」
 「よろしくお願いします。」

麻酔科の先生、手術室のナース、小児科の先生、ベビー担当の助産師、
手術を開始するときには全員にアイコンタクトします。

まずは麻酔です。
全身麻酔なので、麻酔がかかってからなるべく早く娩出が必要です。
患者さんが眠り、麻酔科の先生が手際よく気管挿管します。

「はい、どうぞ。」

何回、この帝王切開をしてきたんだろう。
超緊急の‥。
 「ベビー、産まれました!」

自問自答する、その答えが出ないうち、
執刀開始から1分ほどで産まれた赤ちゃんは、
小児科の先生の蘇生で間もなく元気に啼き始めてくれました。

 「よかった、元気や。」

実際は、2分ほどだったのですが、啼き始めるまでの時間の長く感じたこと。

「輸血開始しますね。」

麻酔科の先生が直ちに輸血を開始します。
本当は、児の娩出までに開始したかったのですが、
万が一の輸血の副作用が胎児に及ばないように、という麻酔科の先生の判断です。

輸血をして、無事手術も終わり、
あっという間の帝王切開でした。
閉腹の時に腸を確認すると、中に真っ黒な便が詰まっているのが透けて見えました。

 「やっぱり、上部消化管からの出血みたいやね。」

翌日、消化器内科に診察を依頼して、
状態が落ち着いていたので、その次の日に内視鏡検査を行いました。
数日後にでた病理診断は、想定していた最悪のものでしたが、
進行期は初期でした。

数日後に、無事に外科の手術も終わりました。
最終的な病理検査の結果でも、追加治療は不要でした。
母乳をあげることもできます。

帝王切開から、外科の手術も終わり、そろそろ退院という時期に、
赤ちゃんも退院です。

明日、一緒に退院できるという日に、
お母さんとゆっくり話しました。
NICUからでてきた赤ちゃんを抱っこしています。

 「今回はびっくりしましたね。 」

「はい。でも、これで良かった、って思ってるんです。」
「初期で見つかったし、ちゃんと治療もいっぺんにできたし。」

 「そう、よかったですね。 もう、無理しちゃだめですね。」

実は、この方はキャリヤウーマンで、職場でも責任ある立場であったようです。
聞いてみると、消化器症状には気づいていたのですが、
妊娠によるものであると思い込み、受診しなかったようです。
産休もぎりぎりまで働いて、産休に入っても、残務処理のために出勤していたそうです。

「この子が教えてくれたんです。 病気のこと。」

 「妊娠しなかったら、忙しくて病院にも行かなかったんでしょうね。」

「はい、きっと。」

 「そしたら、やばかったですよ、たぶん。」

「そうですよね。」

抱っこしながら、じっと赤ちゃんの顔を見つめています。

小さな新しい命が教えてくれたのは、
お母さんの病気のことだけではなかったと思います。
仕事を頑張りすぎて無理をしてはいけないことも教えてくれたのです。
少なくとも、これからは無理しないでください。

女性が、社会で責任を持って仕事をするときに、
妊娠していることが不利になっている背景もあると思います。

妊娠しながら、安心して仕事を続けることのできる環境が
これからも、もっと充実することを祈ります。

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引力、おそるべし [分娩]

「満月の日にはお産が多い」

満月や新月の時期には引力の影響でお産が多いと、
我々産科領域の人間はしばしば思っています。

実際に、30年くらい前にある地方の大規模病院での看護研究で、
数千の自然分娩を対象に調査した結果、
陣痛発来の時期は「大潮」に一致して多かったのだそうです。
大潮は、月の満ち欠けでいうと、満月や新月のときです。
これは、前の病院で、経験豊富な助産師さんが教えてくれました。

先日の金環日食ではどうだったでしょうか?
金環日食は、いわば究極の新月でもあります。

「先生、いつごろ生まれそうですか?」
 「今度の日食の頃、楽しみにしていてくださいね。陣痛来るかもね。」
「本当ですか?」
 「わからないけど、大潮の日はお産が多いっていうから。」
 「でも、ボクも日食見たいから、その瞬間は生まんといてね。 わはは。」

実際に、それほど根拠があるのかわかりませんが、
何十年、何百年に一度、と言われたら、
それはそれでテンションも上がります。

日食のあった月曜日の朝、
分娩室が産婦さんであふれかえってパニックになっているという連絡もなかったので、
ボクは、家で息子たちと日食を見ることにしました。

近所の人も家の前に出てきて、それぞれの観察グッズで、
「世紀の天体ショー」を楽しんでいます。

息子たちも、眼鏡で眺めながら、
「おーっ!」を連発しています。

一通りみて、ボクは病院に向かいました。

いつもよりすこし遅めの出勤でしたが、
道路はけっこう渋滞していました。
みんなが一斉に出勤したのでしょう。

病院につくと、
なんと、
月曜日と火曜日にそれぞれ分娩誘発を予定した妊婦さん3人と、
次の金曜に帝王切開を予定していた妊婦さん1人が入院されていました。

分娩誘発の理由はみんな予定日超過なので陣痛が来ても自然なことでしょう。
帝王切開のかたは、前回早産で帝王切開になった方でしたから、
そりゃ、早めに陣痛が来てもおかしくないでしょう。

分娩室にはちょうど頭が出てきそうな状態の、
誘発予定だった妊婦さんが生まれるところでした。
「おぎゃー!」
金環日食のあった7時半に分娩室に入り、8時半に無事に生まれました。

 「さすが日食。引力が一味違うね~。」
「痛くて、それどころじゃなかったけど、早く生まれてくれてよかったです。」

結局、日食の日を挟む3日間で、8人の分娩がありました。

想像を超えるほどの数ではありませんでしたが、
すべての赤ちゃんが元気で生まれてくれてよかったです。

ほかの産科施設ではどうだったのでしょうか?

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帝王切開を迷った [分娩]

安易に帝王切開するものではない。

ボクはいつもそう思っています。

妊娠期間中から、あるいは分娩開始してから、
合併症やトラブルが起こると、
帝王切開をすることになりますが、
けっして安易に帝王切開はしません。

先月、胎児の発育が悪い妊婦さんがいて、羊水も少なくなってきたため、
主治医のドクターは慎重に管理していました。
陣痛のため入院していると、胎児心拍モニターで遅発性一過性徐脈が出現しました。
子宮口は開大しておらず、陣痛はまだそれほど強くなっていません。
体位変換し、酸素吸入をしても、やはり繰り返し出現します。
「先生、帝王切開でいいですよね。」
 「もちろん、迷うことないんちゃう?」

モニターの解釈にはそれなりの経験も必要でしょうが、
この波形は迷いません。
ただちに緊急帝王切開を行いました。
赤ちゃんが生まれてみると、臍帯に真結節がありました。
それ以外の原因は見当たりませんでした。
臍帯真結節とは、文字通り、臍帯に結び目ができていることで、
臍帯が牽引されると血流が遮断されます。
もちろん、すべての臍帯真結節がこうなるとは限りませんが。
 「やっぱり、徐脈の原因は真結節かな?」
なにはともあれ、生まれたベビーは元気でした。
小さめであったことには他に原因があったかもしれませんが、
徐脈の原因にはなったと思います。

帝王切開を行うことに迷いはありませんでしたが、
突然の胎児機能不全の原因は、確定的なものではなく、「多分」臍帯真結節だと考えました。


その後、しばらくして、久しぶりに帝王切開を迷うことがありました。

40歳を超える高年初産婦で、妊娠初期から軽度の高血圧症がありました。
かといって、薬で治療を要するほどではありませんでした。
妊娠中期のスクリーニングではぎりぎり妊娠糖尿病の診断となりました。
糖尿病内科での管理を受け、
血糖の自己測定と食事制限でなんとかうまくいっていたのですが、
妊娠37週に入り、すこしずつ血糖値が高くなり、
内科の主治医の先生からインスリンによる管理をほのめかされていました。

それでも、この方は、いつもにこにこと診察を受けにきて、
体重管理や食事療法もまじめに頑張っておられました。
きっと、かなり努力されていたと思います。
 「いいお産をしてほしい。」
ボクはそう思っていました。

ところが、
妊娠30週あたりからずっと骨盤位(逆子)でした。
そして、胎児の発育は、どちらかというと正常上限を超えるくらい大きめでした。
妊娠35週の時点でも、やはり骨盤位で、すでに3000グラム近くありました。

 「帝王切開の準備をしておきましょうね。」
「はい。そんな気がしてました。」

この方は、動じることなく、現状を理解されていました。

そして、妊娠36週の妊婦健診のとき、
胎児は骨盤位から頭位へと戻っていました。

 「赤ちゃん、(頭位に)戻ってますね。」

胎児は少し大きめですが、この方ならきっといいお産ができるはず。
(いや、こういう人こそ、普通に経腟分娩して、自信をもって子育てしてほしい。)
ただ、来週診たら、また骨盤位になっていることもあるので、
すぐに手術をキャンセルしませんでした。

妊娠37週の健診でも、胎児は頭位のままでした。
推定体重は3300グラムありました。
羊水も少し多めです。
血圧や血糖はなんとかぎりぎり、といった様子。

内診すると、
児頭は全く骨盤に入ってきていませんでした。
子宮口も硬く、熟化していませんでした。

妊娠35週まで骨盤位だったので、当然といえば当然でしょう。
ただ、それにしても児頭の位置が高すぎます。
妊娠37週の、この時点で、この内診所見。

 「さて、どうしたものか・・。」

本来なら、
もう少し様子を見て、陣痛が来なければ
子宮口を器械的に開大させる、頸管拡張から開始するのが一般的かもしれません。
しかしながら、そのあとの手がなさすぎます。
この方の血圧では、陣痛促進剤はリスクがあります。
児も結構大きいので、それなりに時間がかかりそうです。

それから先は、産婦人科医の経験や勘、といった部分になってきます。

手術をいったんキャンセルして、とことん経腟分娩にこだわってみるのも大切です。
この方が妊娠初期からいろいろ気を使って頑張ってきていることを理解しているだけに、余計に自然分娩をさせてあげたいと思います。

 「いや、やっぱり(経腟では)生まれない。」

ボクは、内診してみて、どうしても経腟分娩が成功しにくいと思いました。
かといって、「決め手」はありません。

迷うところです。

そこで、理由を説明し、念のためにレントゲンで骨盤計測をしてみることにしました。
ある程度リスクがある状態で、安全に経腟分娩できるかを調べる目的です。

結果は、やはり、骨盤が狭かったのです。
小さめの赤ちゃんなら通過できるかもしれませんが、この方の赤ちゃんは少し大きすぎるようでした。
無理したら、経腟分娩は可能かもしれませんが、その「無理」をしたくありませんでした。

診察所見や検査所見、母体の全身状態、胎児の状態、すべてをこの方とご家族に説明し、
情報の一つずつは、どれをとっても帝王切開の決定的な決め手にはならないものの、
いくつもの条件が重なっていくことで、
安全に出産を終了するためには帝王切開が安全ではないかをという方針を提示しました。

もちろん、十分に理解していただき、ボクは妊娠38週に、帝王切開を行うことにしました。

帝王切開をする直前まで、心のどこかで、
自然に陣痛が始まって、つるりんと生まれてくれないかと思っていましたが、
赤ちゃんはあまり生まれたくないようで、骨盤の上の方で、プカプカと浮かんでいました。

結局、帝王切開をして、ベビーを抱き上げてみると、
なんと、臍帯に真結節がありました。

臍帯真結節がある状態で、もしボクが誘発でもしていたら、
もしかすると、先にあった緊急帝王切開になった方のように、
やはり、胎児徐脈が出現して、同じようになっていたかもしれません。

次々と判断することが要求される周産期医療の中で、
また、大病院で若い産婦人科医たちを指導する立場として
久しぶりに感じた「迷い」でした。

ただ、こうした「迷い」は、
もしかしたら、すごく大切な気持ちなのかもしれません。

自然なお産、安全なお産、自分らしいお産・・・、
よいお産を表現する言葉はたくさんありますが、
産婦人科医としてボクが常々想うのは、

「母児ともに、健康なお産」なのです。


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グッジョブ! [分娩]

先日、近くの開業の先生から常位胎盤早期剥離の患者さんの紹介がありました。

常位胎盤早期剥離は200分娩に1例くらいあるもので、
胎児がまだ子宮にいるにもかかわらず、胎盤から出血がおこり、
非常に危険な状態になるものです。
進行の早さや出血の量によって、症状は異なるのですが、
ボクも大切な赤ちゃんの命を守りきれなかった経験があります。
もちろん母体に対しても、その出血量によっては
非常に危険な状態に陥ることがあります。

この日は、手術日で、ボクは2件目の手術が終わったところでした。
産婦人科では朝から同時に二つのチームの分かれて手術をしており、
もう一つのチームも終わっていました。

また、
入院中の別の妊婦さんが、赤ちゃんの状態がよくないという理由で、
今から緊急帝王切開にしようと決めたところでもありました。
(ただ、それほど大急ぎでする必要もないという状態です。)

つまり、その時点で、手術ができる産婦人科医が5人いて、
産婦人科にローテートしている研修医を含めると
ドクター6人が詰め所に集まっていました。
(当然の話ですが、こうしている間にもちゃんと外来では、
3人のドクターが診療を続けており、
診療科長の上司は会議など管理の仕事をされています。)

そんな「間合い」に、この常位胎盤早期剥離の患者さんの搬送依頼の連絡がありました。

病棟と小児科に相談して受け入れができると判断し、
ボクは、依頼元の診療所に連絡を入れました。

 「病棟も小児科も大丈夫です。すぐに送って下さい。」
「助かります。お願いします!」
名前と生年月日が必要な情報なのですが、最初の電話で聞いていました。

メモを持っていたら、
若い先生がそれをくれを手を出してきました。
「医事課にいって、ID(カルテの診察番号)作ります。」
 「おお、サンキュー。」
「輸液とか術前検査も入力しときますね。」
 「おお、助かるわー。」
「先生は手術の入力をお願いします。」
 「ほいきた!」
今度は別の先生が、
「それくらいは、ぼくがしておきますよ。」
 「ええ、いいの?うれしー。でも、それくらいはするよ。」

結局、ボクのすることは何もないくらいでした。
 「なんか、することない?」
「先生は、どんと構えていてください。」
 「1人だけラクしてるみたいで、ごめんね。」

間もなく、患者さんが搬送されてきて、分娩室で診察をしました。

典型的な胎盤早期剥離でした。
痛みや子宮の超音波所見など、こうも典型的な症状がわかりやすく出ていると、
診断も早くつけることができるので、
結果的に胎児や母体には影響が少なくて済みそうです。
研修医の先生にも本当にいい経験です。

ボクは、本人さんと付いてきたお母さんに状況を説明して、
手術の同意を得ました。
あまりの急な変化に、本人もお母さんもまだ気持ちが追いついていないようです。

 「頑張りましょう。」
「お願いします。」

ものの数分で手術室に患者さんを運び、
あとは手慣れたもので、
あっという間に娩出です。

少し出血は多かったものの、赤ちゃんは生まれてすぐに元気に泣いてくれました。
小児科の先生もホッとされた様子でした。

 「よかった、よかった。」

それにしても、早い、早い。

ドクターが6人であっという間に、電子カルテのオーダーや点滴などの処置、
手術前の検査、もちろん、病棟の助産師さんたちもいましたが、
医者でなければできないことって、意外とたくさんあるのです。

ボクがしたことが、患者さんと家族に状況の説明、
麻酔がかかってから一気に娩出しなくてはいけなかったので、
頑張っちゃったくらいです。
(麻酔科の判断で全身麻酔になり、麻酔と同時になるべく早く娩出しないと
赤ちゃんが寝てしまった状態で生まれてくるのです。)

今まで、病院の規模が小さいと言う理由で、
こういった超緊急の帝王切開が必要な母体搬送は断ってきていました。
麻酔科医や産婦人科医のマンパワーの問題、
母体が重症化したときの集中治療の限界など、いくつかの理由がありました。

しかし、
この病院ではそのあたりがクリアされています。

それぞれのスタッフが、自由に動いているようで、
彼らには的確な状況判断と責任感があります。
それが、ひとつの目的で有機的に連動して、
無駄のない動きとなっています。

今回のお産は、スピードが最重要項目であったので、
わかりやすかったですが、
周産期には、「スピードだけが大切ではない」という状況もたくさんあります。
ときには、「みんなが立ち止まって、呼吸をそろえる」というか、
緩急をつけなければならないことがあります。

けっして贅沢を言ってはいけないと思うのですが、
うちのチームは、
ドクターや助産師も、
まだまだ荒削りな部分があります。
若さなのかもしれません。

たとえば、緊急帝王切開でお産になったお母さんの心のケアについても、
チームのみんなで考える必要があります。
そういった部分にまで気を配ることができるように
育てて行きたいと思います。

 「グッジョブ!」

いい仕事をしてるけど、
君たちのポテンシャルはそんな程度じゃない。
さあ、みんな、頑張っていきましょう。

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また悲しいお産があった [分娩]

先日、お腹の中で赤ちゃんが亡くなっている、と、
近くの医院から一人の妊婦さんが紹介されてきました。

妊娠7か月目の子宮内胎児死亡でした。

入院の時、ボクは家にいて当直の若いドクターから連絡を受けました。

「すこし時間が経っているようです。」
そのドクターが超音波などの診察の所見を説明してくれました。
あまり時間が経過すると母体にも影響が出てきます。

入院された日は、子宮口を拡げる処置をして、
次の日に陣痛を起こします。

治療方針と一般的な注意とをそのドクターに伝えました。

次の日、ボクは当直でした。
 「明日はボクがいるからね。」
「わかりました。」

優秀な彼女(女性医師です)は、冷静に対応してくれることでしょう。

次の日、朝から陣痛促進剤を使い、陣痛を起こしました。
午後近くになって、陣痛が強まり、そろそろお産になりそうですと連絡がありました。

ボクは分娩室でこの方のお産に立ち会いました。
主治医であるそのドクターがお産の介助をし、ボクは分娩台の横から見守りました。

静かなお産です。

ほどなく、小さな赤ちゃんが卵膜に包まれたままで、お産になりました。

主治医の先生が卵膜をはさみで開き、赤ちゃんを見ると、
臍帯の過捻転がありました。
お腹の中で、胎児への血流が途絶えてしまったようです。
妊娠中期の子宮内胎児死亡の原因としては、
この臍帯過捻転がもっとも多いのです。

ボクは、御主人に説明し、
そして、頭を下げ、小さな赤ちゃんに手を合わせました。

 「助けてあげられなくてごめんなさい。」
心の中で、赤ちゃんに話しました。

それに合わせて、御主人も、立ち会っていた若いドクターたちも、助産師も、
みんなが手を合わせてくれました。

お産を終えたお母さんも、静かに涙を流しています。


前にいた病院でも、やはり悲しいお産がありました。
そのたびごとに、
ボクはこうやって、手を合わせていました。

そして、前にいた病院では宗教的な背景もあったので、
お別れ会として、スタッフみんなが集まり、
赤ちゃんとお母さんのために祈るひとときがありました。

お別れ会では、亡くなった小さな命に対して、
そして、悲しみにくれるお母さんやお父さん、ご家族に対して、
ボクら医療者の思いや祈りを伝えることができました。

それでご家族が少しで癒されることができれば、と思いました。
もちろん、形ばかりの儀式のように見えることもあったかもしれません。
受け止め方はいろいろあるでしょう。

しかし、お別れ会では、
悲しいお産に立ち会ったボクらスタッフが、
自分たちの気持ちを素直に表すことができました。

医療者は、患者さんが泣いているときでも、一緒に泣くのではなくて、
医療者として、冷静にそれを受け止めなくてはいけません。
だからといって、悲しくないわけではないのです。

死、という悲しみに、
素直に涙を流すひとときがあることで、
その悲しみを、人として受け入れることができます。

「先生、お別れ会、どうしましょう?」

悲しいお産の後に、お母さんからそう聞かれたこともあります。
看護師さんがお別れ会をしますか?と尋ねたのです。
お別れ会は、宗教色がないわけでもないので、
患者さんの中にはお別れ会を病院で受けることそのものに
抵抗を感じる方もありました。

 「もしよければ、ボクたちに、赤ちゃんのためにお別れをする時間を少しだけください。 ボクたちが気持ちを整理して前に進むためにです。」

ボクは、そういってお別れ会をお願いしました。


今回の、この悲しいお産を、
若いドクターたちと振り返りながら、
できればこの病院でもお別れ会をしたいんだと話しました。
そこには宗教的な背景はとくにいらないと思います。

「先生、それで、赤ちゃんに手を合わせていたんですね。」

納得しました、とばかりに研修医の先生がいいました。
ボクが分娩室で手を合わせたのに、すこし驚いたのだそうです。
ボクのとった行動がおかしい、というのではなくて、
これまでに、そうするドクターがいなかったというのが理由のようです。
たとえ、何かの理由で医療者として赤ちゃんに手を合わせることができなくても、
人として手を合わせて欲しいと思います。

 「一番大切なことは、今日の、このお産と赤ちゃんのことを、ずっと覚えておくことや。 絶対忘れんといて欲しい。」

純粋な、この先生たちに、ボクの思いがしっかりと伝えることができたと思います。


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帝王切開の意味を考えた [分娩]

5年前のある夜のこと、病院から電話がありました。
分娩進行中の妊婦さんが破水直後に子宮口全開大となり、
とのときに、「顔位」になったようだ、と。

 「が、顔位??」

顔位とは、反屈位のひとつでいわゆる回旋異常です。
教科書的には分娩進行に問題なければ経腟分娩も可能なのですが、
ボク自身初めての経験でした。
反屈位で分娩したことで、思わぬ神経障害がないとも言えませんでした。

 「よく診断できたね。」

夜勤をしていた助産師が、昔1例だけ経験があって、
破水してすぐに内診で様子がおかしいと思い、当直医に連絡したのです。
当直医も初めてだったので、超音波などで「顔位」の診断をしたのです。

結局、分娩の進行はなく、夜中のうちに帝王切開を行い、
無事に元気な女の子が生まれました。
顔が先進していたので、生まれたときは、びっくりするくらいむくんでおり、
ちょっとだけ心配しましたが、
日を追うごとに顔はすっきりとしてきて、
退院するころには、お母さんとお父さんをちょうど足して2で割った、
きれいな、かわいい赤ちゃんでした。

忘れもしない、緊急帝王切開の一つになりました。

そして、この方が再び妊娠され、お産することになりました。
妊娠経過も順調で、
妊婦健診には、緊急帝王切開で生まれた女の子も連れてこられることもありました。

 「こんにちは。 赤ちゃん、楽しみ?」

健診に来た時に、ボクが尋ねると、恥ずかしそうに、うなづくだけです。

 「あなたが生まれるとき、お母さんも先生も頑張ったんやで。 覚えてる?」

やはり、恥ずかしそうにうなづくだけです。
 
 「わはは。」

うちの病院ではVBACを行っていないので、
今回のお産は、帝王切開です。
手術の前日にこの方の部屋を訪ねました。

 「緊張してますか?」
「はい、少し。」

 「前回のお産が緊急帝王切開で、バタバタとなってしまって、まだ十分に納得できていない部分があるんじゃないですか?」
「はい・・・・。」

ボクもこの方が今回の妊娠をされてから、「この人の『お産』ってなんだろう?」と、
ずっと考えていました。
妊娠経過は順調で、分娩経過も順調で、
破水した瞬間に突然、反屈位になり、帝王切開です。
おそらく、頭では理解できても、気持ちは全くついてこなかったでしょう。
そして、今回も全く妊娠経過に異常ありませんでした。
ボクが、VBACを行えば少しは癒される部分はあるのでしょうが、
やはり、うちの病院の規模では、VBACはせず、
予定帝王切開を選択するべきでしょう。
この方は医療関係者で、そのあたりの危険性も十分に理解されていました。

 「帝王切開も、立派なお産です。 頑張っていきましょう。」


なんとなく、不安げな、この方の表情を見て、こう声をかけるしかありませんでした。

そして、当日。
帝王切開が始まり、順調に進んでいきます。
そして、元気は赤ちゃんが顔をだし、
子宮から赤ちゃんを取り出そうとした時、
臍帯が赤ちゃんの首に3回と脚に1回、巻き付いていました。

帝王切開だから、それが大きな妨げになることもなく、
その後も順調に手術は進み、予定通り、終了しました。

母児ともに健康で、ボクはホッと胸を撫でおろしました。

あとからのこじつけかもしれませんが、
ボクはのこの方のお産について、もう一度考えてみました。

もしも、一人目が帝王切開でなくて、今回、経腟分娩だったとしても、
臍帯巻絡が原因で、分娩進行が停止して、やはり、緊急帝王切開になったかもしれない、と。
もし、そう考えるとしたら、前回の緊急帝王切開は、お姉ちゃんが妹を守るため、
自らの身を挺して、帝王切開で生まれてきた・・・・。
そうだとしたら、この二つの帝王切開が、
少なくともボクの中でつながりました。

もちろん、二人とも、経腟分娩で生まれることができたのかもしれない。

ボクが行った医療行為は、いくつかある選択肢の中で、
必ずしも模範解答であったとは限りません。

医療には、いつも「正解」があるとは限りません。
もしかしたら「正解」なんてひとつもないかもしれない、と思うこともあります。

ただ、かけがえのない命を前に、
自分が行った医療行為を振り返り、
その「意味」について考えることは必要ではないでしょうか?

決して、独りよがりではなく、謙虚に想うことが必要です。

ボクは、今回、二つの帝王切開を想い、
きっと、いつか、この帝王切開の意味を再び考える時が来るはずだと感じています。

一つ一つの命の、圧倒的な重さを感じながら、
今日も、頑張ります。


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友達がそういったんです [分娩]

先日、お産をされた産婦さんのことです。
もともと不安の強い方で、外来診察の時からいろんなことを質問されていました。

「先生、妊娠40週になったので、誘発して産ませてください」
 「えっ?」
「予定日過ぎたんで、もう産みたいんです。」
 「まだ、1日しか過ぎてないのに。」
「今日、入院できるように荷物も全部準備してきました。」
 
たしかに、今回の妊娠は全く正常ですが、前回に比べて赤ちゃんがすこし大きめのようですから、
あんまり大きくならないうちに産んでしまいたい気持ちも理解できます。
また、上のお子さんを預けたりする都合もあるでしょう。
普通なら、そんなことは医学的にも必要ありませんよ、と断るところです。
でも、数日前に、一気に8人の患者さんが退院して、
病棟はがらんとしていました。
そんなこともあって、
 「まあ、いいでしょう。」
管理職的な判断も、少なからず影響していました。
そして、分娩誘発の説明を、手順や、リスクなどをひとつひとつ順番に説明しました。
誘発してからお産まで2、3日かかることもある、とも説明しました。

「え~っ、そんなに大変なことなんですか?」
分娩誘発はそれなりに事故発生の可能性もあり、慎重にするべき医療介入です。

「友達が、お産の時、誘発してもらったら15分で産まれた、って言ってました。」
 「お友達はそうだったかもしれませんが、〇〇さんの場合は違うと思います。」

赤ちゃんの推定体重が3600グラムだったので、かかる時間は長めにいっておいた方が良さそうです。
 「これくらい大きな赤ちゃんを15分でお産する方がかえって危険だと思います。あくまでも、安全第一で頑張りましょう。

「促進剤の陣痛は、普通の陣痛より痛くないって聞いたんですけど・・。」
 「そんなことはありませんよ。 痛いのは一緒です。」
「友達は誘発の方が全然痛くなかったって言ってたんですねど。」
 「お友達はそうだったかもしれませんが、〇〇さんの場合は違うと思います。」

その日のうちに入院して、陣痛誘発しましたが、その日は産まれませんでした。
次の日、また朝から誘発再開です。
昨日の夜中から少しづつお腹も張っていたようで、子宮口は少し柔らかくなっていました。
旦那さんも仕事をキャンセルし、準備万端整った、っていう様子です。

お昼前から陣痛がきつくなり、促進剤を使わなくてもどんどん陣痛が進んできました。

 「いまは、もう自然なお産だと思ってください。」
「え~っ、どうしよう?」
 「産むしかないでしょう。」
「は、はい、頑張ります。 でも、先生、この痛いのをどうにかしてください。」
 「いやいや、それはできません。」

子宮口9センチになった時、あんまりにも痛そうで、悲鳴が上がってきました。
見るに見かねて、傍頚管ブロックをしてみました。
もちろん、それに伴うリスクなどはご主人に説明しました。
神経ブロックで、陣痛の痛みがすこし落ち着いて、
まもなく子宮口が全開大になりました。

 「さあ、もう少しですよ。 落ち着いて頑張りましょう。」
「・・・・・」

すると、この方、突然、何も言わずに、
白目をむいてのけぞり始めました。
両手は、分娩台の手すりを握ったまま、
顔を引きつらせて、目をぱちぱちとしています。
けいれん発作です。

 「子癇や! 血圧チェックして!」
突然、分娩室に緊張感が走ります。

 「○○さーん、わかりますか?」
産婦さんに声をかけながら、その場にいた助産師さんに血圧測定の指示を出しました。

「はいっ!」
あれ? 返事は普通です。でも、顔は白目を剥いています。
 「○○さん、わかってますか?」
「はいっ!」
 「なんで、そんな顔してるんですか?」
あくまでも、白目を剥いてぱちぱち瞬きしています。

「友達が、産むときは目を開けた方が痛くないって教えてくれたんです。」
 「・・・・・」

よかった、子癇発作じゃないみたい。
助産師さんがボクの慌てようをみて笑っています。

 「目を開けたからって痛さはそんなに変わりませんよ。」
 (それに、目を開けてるんじゃなくて、瞬きやし、白目やし)
さすがに、ちょっと怒ってしまいました。
「えーっ!」
 「大丈夫。 あと少し、陣痛の強さをみながら、助産師が説明していきます。」

そうこういううちに、元気な赤ちゃんが産まれました。
なにはともあれ、母子ともに健康です。
 「よかった。よかった。」

心配性なあまり、いろんなひとから少しでも痛くないお産の秘訣を聞いたのでしょう。
予定日過ぎてすぐに誘発したのも、白目も、全部、友達から勧められたのでしょう。

お友達も、そういうつもりではなかったのかも知れませんが、
「こうしたら楽にお産ができる。」なんて軽率に言わないでほしいです。

お産は、ひとつひとつ違うものです。


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長い付き合い [分娩]

今日お産をした方は、実に付き合いの長い方です。
かれこれ7年間の付き合いです。
はきはきした、明るい印象の方です。
一度スーパーでばったり会ったのですが、
大きな声で、「せんせー!」って、手を振ってくれる感じです。

7年前に不妊治療を希望して初めてうちの病院にきて、
排卵誘発やタイミング療法でやっと妊娠

1人目の妊娠中に切迫早産になり、
1ヶ月間の入院生活。

お産の時は、自然分娩でしたが、
出血が多く、
2500mLで、輸血直前でした。
夜中のお産だったので、ボクは立ち会えなかったのですが、
次の朝、分娩室で横たわっているこの方の顔色をみて、
 「白ッ!」
って、言ってしまいました。
のちのち、
「先生に『白ッ』っていわれた。」と、
初めてのお産の時のことを振り返り、
何度となく責められました。

2人目の妊娠は、そのあと、3年ほどして、
排卵誘発とタイミング療法で妊娠。
今度は順調に経過して、
そして、またまたお産の時の出血が多くて、
2000mL近くでした。
やはり、この時もボクが当直ではない夜中のお産で、
ボクはお産に立ち会えなかったのですが、
「前よりはマシ」、と、元気そうでした。

「どうしても女の子が欲しい!」
かわいい男の子を2人も生んだら十分だとは思うのですが、
産み分け方法を勉強しつつ、
3人目は自然妊娠でした。
タイミング療法では、男の子が出来やすい、という信念のもと、
根性の自然妊娠でした。

いつも明るいこの方の健診では、
性別が最重要項目になっていました。

 「赤ちゃん、女の子みたいや。」
「本当ですかぁ?」
 「多分・・・。」
「多分、ってどういうことですかー?」
 
いつも楽しい健診でした。

そして、臨月の入り、
そろそろお産の話題になると、

「先生に『白ッ』っていわれた。」と、
またまた、
責められたワケです。

そして、
今朝早く、陣痛がきて入院になりました。
前のお産は2回とも夜中で、ボクはいなかったのですが、
今度は当直でした。
でも、診察すると、
もう少し時間がかかりそうで、
お産はボクが外来診療中になりそうでした。

 「出血多いかもしれないから、準備をしておこう。」
子宮収縮剤や、ショックになったときの点滴や薬をひと通り
準備しておくように助産師さんに指示しました。

「緊張しますねー」
助産師さんも気合が入ります。

外来診療しながら、この方の分娩監視装置のモニターを見て、
あるとき、
胎児の心音の線が途絶えました。
 「おーっ、生まれた生まれた。」
心のなかでガッツポーズ。

すぐに、病棟担当のドクターが報告に来てくれました。
出血は、700mLほどとのこと。

母児ともに健康でした。

外来が終わって、
分娩室で休んでいるところに、顔を見に行きました。

 「お疲れさま。 また、立ち会えなかったね。」
「いいんです。 何かあったら、先生が絶対飛んで来てくれるって思うだけで安心でした。」
「昼間にお産する、って安心ですよね。」
 「出血が少なくて何よりですね。」
「それより、下の子が、赤ちゃんが生まれる直前に、『ウンチ!』って、それどころじゃなかったのが笑えました。」
 「わはは。」

上のお子さんたちも立ち会って、家族全員の、思い通りのいいお産だった、と喜んでくれました。
あくまでも明るい、この方らしいお産でした。

そういえば、7年間も、不妊治療や子宮癌検診なんかも含めて、
ずっとボクが主治医だったから、ボクの診察の待ち時間に、
ボクが突然分娩室めがけて全速力で走っていくのを
何度となく見ていたのだと思うのです。
外来診察の待ち時間がどんなに長くなってしまっても、
絶対嫌な顔せず、許してくれてました。

「自分がお産で何かあったら、先生はあんな感じで走ってくるんや。」
と見ていてくれたのかもしれません。

 「ボクが来ない、っていうことは『安産』っていうことかもしれないね。」
「そうなんです。先生がすぐそこにいる、っていうだけで十分でした。」

使わずに済んだ、点滴や薬が片づけられるのを見ながら話しました。

結局、3人産んで出た出血は、トータルで人間1人分くらいになりました。
一度にそれだけ出血したら、多分お母さんの命は保証できないでしょう。

命がけでお産をするこの方は、多分、
ボクや、うちの病棟のスタッフを本当に信頼してくれていたのだと思います。
この目に見えない信頼関係がなければ、
きっと3人目を産もうと思わなかったかもしれません。

1回目と2回目のお産で出血が多くて、本当はすごく怖かったと思うのですが、
今回のお産で、これまでお産のネガティブはイメージが払拭されるように祈るばかりです。


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めばえ [分娩]

よみうりテレビの「めばえ」というコーナーを御存じでしょうか?
http://www.ytv.co.jp/ten/mebae/index.html

平日の夕方に、生まれたてのホヤホヤの赤ちゃんお母さんや家族と一緒に出演する番組です。
おそらく関西ローカル番組なので、関西以外の方にはなじみはないかもしれません。
ボクがこの時間帯にテレビを観ることはほとんどありませんが、このコーナーを観たことはあります。

いつもお産で生まれたての赤ちゃんを見ているくせに、
テレビで見ると、
 「おー、かわいいやんか。」
と、まるで自分が赤ちゃん評論家でもあるかのように、ちょっと
プロっぽく楽しんでいます。
純粋に生まれたての赤ちゃんのパワーがもらえるいいコーナーだと思います。

このコーナーへの出演は、あらかじめ妊婦さんが応募しておいて、
出産する産科施設に、テレビの撮影が来ても大丈夫か?という承諾を得ておく必要もあります。
そして、赤ちゃんが明け方から午前中に産まれると、
取材に来てくれて、それがその日の夕方に放送されるのです。
うちの病院は、こういった取材のようなものは原則NGなのですが、
この、「めばえ」に関しては、ボクの裁量の範囲内で許可しています。

先日の土曜の午後、ある妊婦さんが入院となりました。
この方も、いつもの例にもれず?、助産院でのお産を希望していた人でした。
破水して、陣痛が1日以上始まらないため、医療介入が必要と判断され、
当院での分娩を勧められて転院となりました。
この方は、妊娠中期に切迫早産もあったので外来でボクが管理していた、
顔なじみ?の妊婦さんでもありました。
入院時の診察では羊水混濁や感染徴候はありません。
超音波でも羊水はまだ十分に残っているようでした。

 「もう少し、様子をみましょうか? あと1日くらい・・。」

自然分娩を希望されている方であったので、感染予防の抗生物質は投与しますが、
赤ちゃんが安全である限り、できる限り希望に沿ってあげたいとも思います。
そして、次の日は日曜日でしたが、ちょうどボクが当直なので、
ゆっくりお産に付き合うこともできます。
日曜日になっても陣痛が来なければ陣痛誘発をするべきです。
その辺の見通しを本人さんとご主人さんに説明しました。

「あの…、日曜日に促進剤を使ったら、いつ生まれるんですか?」

 「子宮口も軟らかいし、赤ちゃんもよく下がってきてて、後は陣痛が弱いだけなので、そんなに時間はかかりませんよ、きっと。」

いつ生まれるかなんて、なかなかわかりません。
言葉の最後に「きっと」をつけてしまします。

「実は、『めばえ』に出ようと思ってるのですが、できたら、月曜日の深夜から明け方ごろに生まれてくれるとうれしいんですが…」

日曜日に生まれちゃうとテレビに出られないから、日曜日の夜に陣痛をつけて、日が変わったころに生まれるようにして欲しいとおっしゃるのです。

いくら陣痛がきたら、ポロッと生まれそうな状態とはいえ、陣痛誘発・促進はいくらかは危険を伴う医療行為です。わざわざ人手の少なくなる日曜の深夜に誘発するのは問題があります。

 「いやぁ、それだけはやめておきましょう。 夜中にわざわざ誘発するのは危険です。」
 「自然に陣痛がくることを待ちましょう。」
「はい、わかりました。」

意外とあっさり、ご理解を頂きました。
そして、やはり自然に経過を見守ることにしました。
日曜の朝になって、それでも血液検査でも感染徴候はなく、超音波で羊水はしっかり残っていました。
陣痛は弱いのがきていましたが、すぐに産まれそうな様子でもありません。
月曜の朝方にうまく生まれてくれることを祈りつつ、陣痛が来ることを待ちました。

結局、月曜の朝まで陣痛は強くなることはなく、
月曜の朝から陣痛促進を行うことにしました。
金曜からの前期破水で、高位破水とはいえ丸3日経っています。

陣痛促進剤を使い、お昼過ぎに無事産まれました。
元気な赤ちゃんでした。
赤ちゃんは感染症状もなく、ひと安心しましたが、
産後の子宮収縮が悪く、出血が多く、いくつかの処置を行うことにもなりました。
助産院で産まない方が安全だったと、あらためて思うお産でした。
もちろん、テレビ出演には間に合いませんでした。

もし、このかたの希望通りに、夜中に陣痛促進したとしたら、
産後の出血が、人手の少ない真夜中に起きたとしたら、
それはそれで、もっと危険な状況になっていたのかもしれません。

「テレビにでて、家族のいい思い出にしたい。」

気持ちは解らないでもないのですが、
なによりも安全なお産を考える時、
やはり、後回しにされなければならないことだと思いました。

できることなら、「めばえ」という番組(コーナー)においては、
産まれた時間の制約などなく、
湯気が立ってる赤ちゃんじゃなくても出演できるようにしてもらえないでしょうか?
少なくとも、テレビに出たいという理由で、診療方針に影響が出ないような
工夫をしてほしいものです。
かわいい赤ちゃんの姿で力をもらえる、すばらしい企画の番組なのですから。

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