So-net無料ブログ作成
検索選択

勇気という名のプレゼント [分娩]

最近は高齢の妊産婦が年々増加しています。
40歳なんて、珍しくありません。

うちの病院でも、先日46歳の方が出産されましたし、
そんな話を仲間内ですると、
「うち(の施設)は48歳。しかも、双胎。」
とか、ちょっとしたどや顔で言い返されたりします。

先日、一人の妊婦さんが出産されました。
42歳の初産婦さんでした。
結婚が遅く、ご主人は年下でした。

妊娠初期から、いつも機嫌良く?受診されており、
体重増加や血圧など、注意することもほとんどなく、
いわゆる「順調に」経過していました。
風邪を引かないようにと、病院に受診するときはいつもマスクをされていて、
この方を素顔を見たのは、妊娠36週に入ってからでした。

 「失礼ですけど、こんな顔してはったんですね。」
「そうなんです。すいません。」
 「いっつもマスクしておられたから。」
 「もし、緊急で手術することになっても、他の人と間違うかも知れなかったですね、わはは。」

健診についてきたご主人も楽しそうに、
「かわいい顔してるでしょ?」
って。
 「はい、そうですね~。」

この方は、妊娠初期からはっきりと意思表示をされていたことがあります。
分娩は最初から帝王切開を希望されていたのです。

電子カルテのサマリーに、
出産予定日とか合併症の有無などを記載している部分があるのですが、
そこに、
「選択的帝王切開希望」と記載してあります。
(・・・記載したのはボクですが、)

 「帝王切開ですか?」

「はい、高齢なんで。」
「高齢って、なにかとトラブルあるって言うし、安全な方でお願いします。」

 「帝王切開にも、それなりにリスクはありますよ。」

「はい、でも、赤ちゃんには安全な方がいいかなって。」
「それに、最初で最後の妊娠だと思うんです。」

 「わかりました。」

毎回の妊婦健診が、あまりにも順調だし、
妊娠9ヶ月目には、児頭が骨盤内に下がってきており、
妊娠10ヶ月目には、少し子宮口が軟らかくなってきていました。

こんな妊婦さんを帝王切開していいんだろうか?
悩んでしまうくらい、もったいない気持ちになりました。
もったいないですよ、といっても、
この方の気持ちは揺らぐことはありませんでした。

帝王切開の前に、ご主人と一緒に、手術のリスクを説明しました。
その後で、同意書を渡して、記入してもらいます。

たまたまでしたが、
入院した前日は、ボクが当直だったので、
夜中に陣痛が来たら、そのまま経腟分娩してもらおうか、なんて密かに考えていました。

結局、陣痛は来ることなく、
手術の朝になりました。
病室に顔を見に行きました。

 「おはようございます。いよいよですが、よく眠れましたか?」
「あんまり眠れませんでした。」
 「頑張りましょうね。」
「はい、よろしくお願いします。」

いつも、ずっとニコニコされていた方ですが、
さすがに緊張は隠せません。
笑顔が明らかにこわばっています。

帝王切開は、滞りなく順調に終わり、
元気な赤ちゃんが生まれました。

 「お疲れ様でした。 怖かったでしょう?」
「はい。そりゃ、もう。」
「でも、主人に似てくれててよかったです。」

いっぱいいっぱいのギリギリの笑顔で答えてくれました。

そこで、ボクは考えました。

高齢であると言うだけで、
自然な経腟分娩をせず、
帝王切開を受けることは、
本当に正しいことなんだろうか?
本当に必要な医療介入だったのか?
きっと、この方なら、普通に、いや、普通以上に順調にお産できたのではないか?

医学的に、何が正解か、わかりません。
46歳の初産婦なら、世の中のほとんど施設が帝王切開を選択するでしょう。

この方にとっての帝王切開は、
生まれてくる赤ちゃんに対して、
「自分ができる最大の安全」を提供する手段だったのだと思いました。

その安全を提供するために、
この方は、顔が引きつるくらいの恐怖に耐え抜いたのです。

陣痛は、そりゃ痛いでしょう。
しかし、
医学的に必要がなかったとしたら、
お腹をばっさり切って、赤ちゃんを産むなんて、
ボクが女性だったら、怖くてできないと思います。

この方は、妊娠をしたときに、
最後に、元気な赤ちゃんを抱っこする、という最終目標を達成するために、
自分がイメージできる最も確実な方法を選択したのでしょう。

この方が選択した帝王切開は、
もしかしたら、母親として、最初に赤ちゃんに捧げた、
『勇気』という名のプレゼントだったかも知れません。

これからも、ニコニコと
優しい笑顔で、子育てを頑張ってください。
そして、赤ちゃんが大きくなったときに、
自分がどんだけ頑張って、産んだのかを
誇らしく話してあげてほしいと思います。

本当にお疲れ様でした。

nice!(9)  コメント(28) 
共通テーマ:妊娠・出産
メッセージを送る